色とりどりの風船のかけらが

2016年9月5日(月) 晴れてる!

水道のそばには色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、あいつらまた来たんだな、と思った。

 

夏の始まり、というか夏休みの始まり、ここらの学校が一斉に夏休みに突入したその週末にポケモンゴーがリリースされて、ふだんより人通りが多いこの公園もポケモントレーニングに励む人が九割九分九厘、残りは犬とおばさんとホームレスと中国人だった。おばさんもポケモントレーナーだった可能性がある。ホームレスはただの通りすがりの可能性もあるし、中国人は韓国人だった可能性もある、怒りながら電話していた。犬は犬だった。

この公園は水飲み場が充実していて(人間の)、あちこちに水道がある。この日ふたつめの水道のそばには夏休みに入ったばかりの高校生が二人いて、羨ましいことに男と女だった。とても仲良しだった。ポケモンしてなかった。なにをしていたかといえば、駄菓子屋で売ってる水風船に水を入れて、キャッチボールしていた。男は上手に投げるから女は上手にキャッチした。女はでたらめに投げるから男はキャッチしきれずに、水風船はアスファルトに落ちて割れた。雨が降っていないのに雨が降ったような匂いがして、女はあははと笑っていた。君たちずっとそうやって遊んでいたのかい、と問いたくなるほど足元には色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、やがて女があーんもうなくなっちゃったよ、と言うのが背後に聞こえた。そのあとどうしたかは知らん。

 

昨日訪れたその公園でポケモンする人はほとんどいなくて、というか人がほとんどいなくて、犬とおばさんはいた。二つめの水道のそばには色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、あいつらまた来たんだな、と思った。

なつやすみの宿題 投稿します

なつやすみの宿題は終わってるんだけど家に忘れてきました、などと毎年言ってたような気がする。

こちらの企画に参加します。よろしくご覧ください。

 

 

 

雷が蕾ゆらして百合の香 昨日、煙になったひとたち

 

 

さっきからきみの頭の上にある柄杓がなにか零しています

 

 

ね、あたしをたべてって姦しいから冷たい場所に閉じ込めた 桃

冷蔵庫はオアシス 何度たしかめてまた閉じ込める芳しい きみ

 

 

平熱を飛び越す風に跳ねる蝶 おれにおまえを殺させるな

 

 

金曜のまひるに陰をうしなって茹だるわたしはえだ豆だった

 

 

アカシック蚊取線香 渦の中、昨日、煙になった夏たち

餃子

「母さん、どうしたの?父さんの部屋」

キッチンに降りていくと母は餃子を包んでいるところだった。ボウルの中に挽肉とピーマンが見える。ピーマン入りの餃子は父の好物だった。

「どうってことないわよ。ただなんとなく、父さんがふらっと帰ってくる気がしてね」

父の部屋の真ん中には、イーゼルと絵の具と、キャンバスがセットされていた。

三年前の夏に家族三人で海に行った時、父はビーチパラソルの下で微笑みながら、賑やかな海の様子をスケッチしていたっけ。キャンバスにはその時のスケッチが、途中まで描き写されていた。

正直いうとわたしは、こんなことしても父が戻ってくるわけないって思っている。けれどそれで母の気が済むなら…

「それで母さんの気が済むなら好きにすれば、とか思ってるでしょ」

餃子を包み終えた母がこちらを向いて笑った。

「でもね、母さん信じてるんだから。あのキャンバスの絵、少しずつだけど描き進められているのよ。一昨年は青い海しかなかった、去年はそこに母さんが加わった。今年はどこまで完成させてくれるか、楽しみじゃない」

「うん、それなんだけど…」

おお、言い出しにくい。だけどわたしは母の目を見て言った。

「父さんの趣味は水墨画じゃん。あんな風に絵を描きたがるとは思えない」

その途端、母はヒュッと短い声をあげて、消えた。

「やれやれ、今年も終わったか」

わたしは父の部屋に入ると絵の具を手に取り、キャンバスに父さんを描き加えた。それからキッチンに戻って、ピーマン餃子を焼いた。三人分のピーマン餃子を一晩で食べきれるはずもなく、わたしはしばらくこればかり食べることになる。

 

2016年8月20日(土) 晴れ シーツがよく乾く午後

ひるねをしながらそんな夢を見たのさ。

 

夏のコインランドリーは

2016年8月14日(日)晴れ 陽射しは強いが風が涼しい

今日は娘と一緒に仙台の街をブラブラする予定だったのだけど、娘が風邪をひいてしまったのでわたしはコインランドリーに来ている。夏のコインランドリーは涼しく、なのにいつ来ても陽射しだけ強い。

お盆で夫の実家に帰省していて、昨日はプールに浸かったから水着を洗いに来た。今日は暇だったからパンツを洗いに来た。家事の中では洗濯が一番すき、と言っていた先輩のことを思い出して、わたしも洗濯が一番すきですぅ、といいつつわたしが一番好きな家事は掃除なのだけど、今なら洗濯が一番すきといえるかもしれない。ほかほかでわずかに軽くなった洗濯物を持って帰るのは楽しい。もっともコインを入れてスイッチ押すだけの作業を洗濯とよぶかはわからないけど。

昨日一日で出たほんのすこしの洗濯物に千円かけて40分かけて洗うまで、このソファにぼんやり座って待ってる。

時をかける短歌

婚約のときの約束はたさんとゴキブリを手に封じ込めたり

(康 哲虎/NHK短歌 2015年11月号)

 

2016年8月5日(土)晴れ 水まんじゅうを買う

去年の夏は乳飲み子と二人きりで夫の帰りを待つ生活が続いていて、その日なんとなく付けたテレビではNHK短歌が始まったのでした。そのころは短歌の目に一生懸命だったから丁度いい勉強したろうじゃんと思ってしっかりと見た。おそらくNHK短歌をしっかりと見たのはこのときが最初で最後、だから番組の内容や紹介された短歌は案外ずっと覚えていて、それで今日蘇ったのがこちらの作品です。

 

職場の渡部くんがもうすぐ結婚する、入籍は、式はいつだ、もう新居は決めたのか、とか支店内は最近なんだかお祝いムードで、そんな中隣の席の女の子が、「わたし昨日渡部くんと100均で会いました」と教えてくれた。へー、なに買ってた?「ゴキブリホイホイ買ってました」なんじゃそりゃ、新居にゴキブリ出るの?「わかんないけど、捕まえたら奥さんに見つかる前に捨てるんだって」へえ、優しいね。渡部くんは優しい。きっと、ゴキブリをはじめとするあらゆるものから奥さんを守ろうとしているのだろう。そのためなら自分の手を汚すことも厭わない。だけどそのうち、彼よりも先にゴキブリを見つけた奥さんがスリッパで叩いて殺して何食わぬ顔で始末するんじゃないか、そう思ったのは去年も今日も同じ夏の日。それで蘇ったのがこちらの作品です。

 

そんな渡部くんに学生時代どんなサークル活動してたのって聞いたところ、短歌を読んだり詠んだりしていたというので驚いた。詠んだ短歌は見せてくれなかったけど、読んだ歌集なら貸してあげると今日持ってきてくれたので、やっぱり渡部くんは優しい。

プラスチックの卵焼きはプラスチックのたくあんに酷似していた

2016年7月18日(月) 朝のうち雨のちくもり もうすぐ満月

今日も今日とて不幸騒ぎで、わたしは喪服を着て線香の匂いの中にいながら、今まで世話になったことのある親戚や世話にならなかったけど人生でなにかしら接点のあった親戚のことなど考えていた。線香の匂いの中といいつつそれに気づいたのは帰宅してからで、あ、自分線香臭いなと、それは最近よく使う蚊取り線香の匂いとは違っていた。

わたしが最初で最後の弔辞を読んだのはひいばあちゃんの葬式で、一緒にままごとしてくれてありがとう、ままごとの卵焼きがおいしかったです、みたいなことを述べました。そんなことを思い出しながら、ままごとの卵焼きってそういやまだ実家にあったな、このあいだ娘が遊んでたな、そんなことを思い出しながら、あのプラスチックの卵焼き(プラスチックのたくあんに酷似していた)にはひいばあちゃんとばあちゃんと母親とわたしと娘の、なんと五世代にわたる指紋が付いているのか、そんなことを思い出すと感慨深いものがある。お葬式とは送る人のためにあるのだなあと、最近つくづく思います。

かみ

2016年7月13日(水) 晴れのち雨

このペーパーレスの時代にこんなもん客に送ったって紙代印刷代郵送料がもったいないだけっすよね、同僚の同意を得たわたしは正午になるやいなや千円札を握りしめて“たらこ”に向かった。たらこクリームスープパスタは163円だった。今日はどうしてもこれが食べたかった、というか、買いに来たかった。たらこを買ったお釣りのうち60円でネットプリントを利用する。配信中の短歌を1枚、プリントしてきました。
先日の七夕に初めて利用してから、わたしのなかでネットプリントがあつい。「七物語」は一日限定配信だったからふだん腰が重いわたしもついコンビニいやたらこに駆け込んでしまった。そこから弾みがついた。短歌を紙上で読むしっくり感、きれいなデザインをながめる楽しみ、タイムラインに流れてゆかず永遠に手許に残る安心感、配信に期間が設けられているから、読みたいなら今日たらこに駆け込むしかないという焦燥感、あと機械にお金を入れて1分近く待ってやっとゆっくり出てくる紙を手に取る瞬間とか、そういうのが楽しい。たらこに行くのは平日の昼休みと決まってるから、今日行こうか明日にしようか午前中のそわそわ感(おなかの減り具合とも相談する)、じっくり読むのを楽しみに午後の仕事をするわくわく感、それが仕事の励みになる(集中していない)。そんなわけで最近A4の紙が増えつつある。「趣味」として紙が増えるなんて思ってもみなかった、このペーパーレスの時代に。