衣更え

2016年10月9日(日)朝のうち雨からくもりに変わるも、強風が続き肌寒い天気となりました 芋煮会は中止です

一年前からイモニィイモニ、芋煮セレモニーを楽しみにしていたのに、肝心の天気がこれじゃどうしようもない。この一週間で何度天気予報サイトを巡っただろうか、それが昨日になっても天気は好転せず、結局芋煮会は中止です。急にさむくなりやがって。えっいま白鳥の声聞こえなかった?、仕方ないから衣更えをした。

押入れから冬物の衣装ケースを引き出してフタを開けるとき、また今年もこの服を着なきゃならんのかという気持ちになる。この中にトキメク服とやらはそうそうない。なんでこれ買ったんだろって思う服ばかり入っていてがっかりする。でも買うときは確かにこれがよかった、それは覚えていて、同時に、そのあと家で着てみたら案外似合わなくてなんでこれ買ったんだろって思ったことも覚えている。ちゃんと試着もしたはずなんですけどね、とにかく服を買う時点ですでにセンスのないものばかり選んじゃうんだろうな。それが分かるから買いに行くのが億劫で、大体にして胸を張って服を買いに行く服もないからなんとなく卑屈になっちゃって、センスないなら温順しく雑誌とかマネキンの真似でもすればいいのに流行りのものは似合わないとかスタイルよくないと着れないとかまあそれはその通りなんだけど、結局無難を選んだ結果がなんだか中途半端なデザインの黒とかボーダーとか着回しできるようなできないようなものばっかり集まってきて、つまり全然トキメかない。それに、服を買うとき、服にお金を使うのをよくないと思っているのかもしれない、心の底では。衣食住なら衣服の優先順位は最後に位置付けられていて、必要ないとされているものにお金を払うのがこわいのかもしれない。ただしそう思うのは自分で自分の服を買うときだけで、夫や娘の服を買うときはお金のことはあまり気にしない。そんな彼らが所有する服はいつ見てもカワイイ、トキメク。たまに借りたりする。なんでだよ。それで、最小限の服を着回したいわたしと、いろんな色やデザインの服を並べて組み合わせを楽しみたいわたしがいるのに、安さの時点で着回し一択!みたいになって結局失敗するんだよなあ。ちなみに夏物もそうだった。今年買い足した夏服、来年になれば半分はトキメかないんだろうなと思いながら衣装ケースに仕舞った。本当に着なかったやつは処分して、残ったスキマには来シーズンのオシャレへの期待を詰めた。

短歌の目9月 投稿します

短歌の目、第二期がはじまって嬉しいです。よろしくご覧ください。

 

題詠5首

1. 星
オールナイト 非行少女はスモッグの上に煌めく星を知ってる

 

 

2. 吹
隣人は善人ばかり あなたにも山吹色のお菓子をあげる

 

 

3. はちみつ
はちみつのやさしさなんて無関係バウムクーヘン焼きは短命

 

 

4. 川
モモタロや、ガンジス川を下るときルート分岐は恒河沙にある

 

 

5. 秋刀魚
ながからむ髪を刈ってはちゃぶ台へ やあ待たせたなごめんな秋刀魚

 

 

テーマ詠「秋」

モノクロの世界だろうと構わないこの新米が真っ白だから

 

 

じんるいよこよいの月はしょうがいでもっとも綺麗とおしえてやろう

 

 

サイレンは遮るものもないままに過ぎ去ってゆくなにもない秋

 

 

最近の服の寿命というものを知りたくなくて祖母のセーター

iPhoneから送信

「おまえさん、いつまでこの舟に乗る気だい」

この人は顔をあわせるたびにこんなことを言う。

「この舟もすっかり古くなって、足も遅いし、なによりもう誰も乗せらんねくなっちまった。いい加減に次を考えといてくれよ。俺はもう何ヶ月も前からそう言ってんだからな」

わかってる。何ヶ月どころじゃない、もう一年以上も前から、彼はそうやって言い続けてきた。この間なんて乗船を断られた客が哀れにも波間に消えるところも見てしまった。もはやこの舟には、人っ子一人、ネズミ一匹乗り込めないのだ。アリならかろうじて5、6匹潜り込める。それが限界だった。

「でもさあ、愛着ってやつがあるじゃん。今更ほかのに変えられないよ」

わたしだって舟のなかは一日に何度も点検するのだ、そんなことはわかっていた。わかっていようとも、この舟はしっかりとわたしに馴染んで、なかなかに離れがたい。

「この型は廃番だっていうもんなあ、たしかに次を探すのは容易でないだろうぜ」

それでもこのままで良いはずがない。わたしは重い腰を上げて、新しい舟を探しに出掛けた。

 

舟を売る店には顔なじみがいて、わたしは彼に連絡を取る。もしもし、わたし、そろそろ新しい舟を買おうと思うんだけど。

「やっと買い換える気になった?」

彼の声は、 初めて彼から舟を買ったときと少しも変わっていなかった。

「まだあの舟に乗ってるんでしょう、もう4年も前の。あんなの化石だよ、化石」

5年前。わたしは心の中で修正する。

「いまさら何を買ったらいいかわからないんだもの。なにかおすすめはある?」

「4年前のに比べたらどれも全然マシ。だけどうちの店では『ジーエーエルエーエックスワイ』と『アイピーエイチオーエヌイー』がよく売れているかな」

「ジー、エー、…なんだって?」

最近の舟は型番が複雑で、一度聞いただけでは覚えられない。わたしは鉛筆を握り直して聞き返した。

「みんな、“銀河”とか“林檎”とか呼んでる。まあ、とにかく一度店に来てみなよ。触ってみて、欲しくなったら買えばいいさ。いまはどれも品薄で、すぐには手に入らないかもしれないよ」

「ありがとう」

あなたの店に行くかどうかはわからないけど、とは言わずに、わたしは『ぎんがとりんご』と走り書きしたメモ用紙をポケットにしまった。

 

「おまえさん、あの店に連絡したんだろ。いいのは見つかったか」

舟に戻るとすぐにその話題になった。

「ちょっと聞いただけじゃなにもわからなかった、けど、いまは“銀河”か“林檎”ってのが人気なんだって。このどちらかにしようかなあ」

わたしがメモ用紙を見せると、彼の顔が少し曇った。

「うん、…まあ、なあ。まあ、…引っ越しの準備はちゃんとしとけよ」

そのことを考えると気が重いのだけど、いざとなったらまたこの人を頼るからいいことにする。

彼は『ぎんがとりんご』の文字のとなりに『ジーエーエルエーエックスワイ』『アイピーエイチオーエヌイー』と書き加えてくれた。さすが、頼りになる。

 

店を訪れたのはそれから一ヶ月もあとのことだった。店の中には様々な舟が所狭しと並んでいて、案の定何を選べばいいかわからない。わたしはポケットからメモ用紙を取り出し、彼が書いてくれた文字を頼りに目当ての舟の前まで足を運んだ。

迷うまでもなかった。たくさんの舟の中でも一際目立つように『ジーエーエルエーエックスワイ』と紹介されているその舟は、とても薄く、そして大きかった。わたしの手から溢れて、いまにもするんと滑り落ちそう。それは彼が動かす舟とはあまりにも違う乗り心地だった。

それから裏に回り込んで、『アイピーエイチオーエヌイー』を手に取る。先ほどとは逆に厚みがあってコンパクトなこの舟は、意外なほどわたしの手に馴染んだ。

「なにかお探しですか?」

突然声をかけてきた舟売りは顔なじみの彼ではなかったが、

「新しい舟に変えようと思ってて、」

誰でもいいから声をかけられたらこれに決めてしまおう、とそこでわたしは思った。「でもこの型は品薄と聞いています。こちらの店には在庫がありますか?」

舟売りは少し考えるふりをして、でもそれが“ふり”だということはなんとなくわかった。わたしは“林檎”と呼ばれるこの舟を買うんだと、そして今の舟に別れを告げるんだということを直感した。

 

結果、店には在庫がたくさんあって、わたしはすぐに“林檎”を手に入れて帰ることができた。

「最近の舟は乗り心地が全然違うね。やっぱり今までのほうが乗り回しやすいなあ」

しかし、わたしが話しかけても彼からの返事はこなかった。

「ねえ、聞こえてる?」

今更になって、嫌な予感がした。引っ越しの準備はちゃんとしとけよ、と言った彼の声が蘇った。

「まさか…もうあんたの舟には乗れなくなっちゃった?」

まさか、まさか。けれども彼の声が再び聞こえてくることはなかった。

 

その晩、新しい舟を乗りこなすことができないまま、不安を抱えてわたしは眠った。手に馴染むと思ったこの舟は握りしめるとやはり違和感があって、そのせいだろうか、夢を見た。

「ほらみろ、だから準備しとけって言ったんだ」

今にも沈みそうな舟に乗って、彼が言う。

「こんなに違うとは思わなかったんだもの。ねえどうしよう、これからわたし、新しい舟でやっていけるのかな」

「知らん知らん。俺にはそっちのことは全然わからん。でもな、」

彼との距離が急に近くなる。

「夢の中でならいつでもこんな風に会えるんだぜ。だからあんまり心配すんなよ」

彼の後ろにはわたしが置き去りにしてきた荷物やなんかが垣間見えて、わたしは心底安心した。

「2年経ったらまた戻ってこいよな」

夢の終わり際に彼はそう言って、目がさめると耳もとをWi-Fiが飛んでいた。

そんな夜だった

2016年9月7日(水) おおむね晴れ 夜になり気温が下がる

今日は集まりがあって終わったのは夜九時、そこから20分かけて上司を家まで送った。上司の家は山沿いにあり、街灯のほかには一つ信号があるだけの田んぼ道を緩やかに登っていく。ただでさえ方向感覚がないのに夜だからなおさら、どこを走っているのかわからずに、まっすぐ進めとかあのカーブミラーで曲がれとか、言うとおりに車を運転した。

「この辺あんまり来ることないんですけど、これとってもいい雰囲気の神社ですね」

まもなく上司の家だという山のふもとには神社があった。そこだけ手入れされた杉の木に囲まれて、赤い鳥居がある。朱い鳥居の上には階段が続いていて、朱い鳥居の下には朱い橋が架かっている。“いい雰囲気”とはつまり古いってことを言いたかった。古くてなんか怖そう。

「いやぁ、ただでかくて古いだけでよう、宮司もいないんだぜ。階段上らなきゃ宮にも行けねんだ。宮なんて無駄によっつもあってよう、雨漏りだの草刈りだの手がかかるんだ。おれはそのうちひとつずつたたっ壊そうと思っててよ」

酒が入った上司は罰当たりなことを言う。

「そこ左に行ってすぐが俺んちだから」

上司の家は神社からすぐのところだった。酒飲みの熱気と夜の涼しさのせいで、わたしの狭い軽自動車のフロントガラスは薄っすらと曇りはじめている。上司を降ろしたら換気しよう、と思った。

「それじゃあ今日はお世話様でした」

やれやれ、そして少し車を動かして、わたしは気づいたのでした。

この窓ガラスの曇りって、これ手型じゃね?

 

それではお聞きください、ボブ・ディランで『風に吹かれて』、フロム・カー・ステレオ。


Blowin'The Wind ボブ・ディラン 風に吹かれて

 

夜風に吹かれてフロントガラスの曇りがなくなっていく、しかし右上にあるのは、どう見ても、見れば見るほど、手型だった。

そこでわたしは平静を保ち、まずミュージックを変えた。それから敢えてバックミラーをチェックして、車の後部を気にすることで背後を気にしていないことをアピールした。そうして通りかかった信号は赤だったので、ティッシュを取り出して窓ガラスを拭いた。ゴシゴシこすると手型は消えた。

内側から付いてるよこれぇ…

そこでわたしは平静を保ち、保ち、保ち、市街地まで戻ってきたところで思い出した。こないだ車内で蚊をたたっ殺したんだったなって。そんな夜だった。

色とりどりの風船のかけらが

2016年9月5日(月) 晴れてる!

水道のそばには色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、あいつらまた来たんだな、と思った。

 

夏の始まり、というか夏休みの始まり、ここらの学校が一斉に夏休みに突入したその週末にポケモンゴーがリリースされて、ふだんより人通りが多いこの公園もポケモントレーニングに励む人が九割九分九厘、残りは犬とおばさんとホームレスと中国人だった。おばさんもポケモントレーナーだった可能性がある。ホームレスはただの通りすがりの可能性もあるし、中国人は韓国人だった可能性もある、怒りながら電話していた。犬は犬だった。

この公園は水飲み場が充実していて(人間の)、あちこちに水道がある。この日ふたつめの水道のそばには夏休みに入ったばかりの高校生が二人いて、羨ましいことに男と女だった。とても仲良しだった。ポケモンしてなかった。なにをしていたかといえば、駄菓子屋で売ってる水風船に水を入れて、キャッチボールしていた。男は上手に投げるから女は上手にキャッチした。女はでたらめに投げるから男はキャッチしきれずに、水風船はアスファルトに落ちて割れた。雨が降っていないのに雨が降ったような匂いがして、女はあははと笑っていた。君たちずっとそうやって遊んでいたのかい、と問いたくなるほど足元には色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、やがて女があーんもうなくなっちゃったよ、と言うのが背後に聞こえた。そのあとどうしたかは知らん。

 

昨日訪れたその公園でポケモンする人はほとんどいなくて、というか人がほとんどいなくて、犬とおばさんはいた。二つめの水道のそばには色とりどりの風船のかけらが散らばっていて、あいつらまた来たんだな、と思った。

なつやすみの宿題 投稿します

なつやすみの宿題は終わってるんだけど家に忘れてきました、などと毎年言ってたような気がする。

こちらの企画に参加します。よろしくご覧ください。

 

 

 

雷が蕾ゆらして百合の香 昨日、煙になったひとたち

 

 

さっきからきみの頭の上にある柄杓がなにか零しています

 

 

ね、あたしをたべてって姦しいから冷たい場所に閉じ込めた 桃

冷蔵庫はオアシス 何度たしかめてまた閉じ込める芳しい きみ

 

 

平熱を飛び越す風に跳ねる蝶 おれにおまえを殺させるな

 

 

金曜のまひるに陰をうしなって茹だるわたしはえだ豆だった

 

 

アカシック蚊取線香 渦の中、昨日、煙になった夏たち

餃子

「母さん、どうしたの?父さんの部屋」

キッチンに降りていくと母は餃子を包んでいるところだった。ボウルの中に挽肉とピーマンが見える。ピーマン入りの餃子は父の好物だった。

「どうってことないわよ。ただなんとなく、父さんがふらっと帰ってくる気がしてね」

父の部屋の真ん中には、イーゼルと絵の具と、キャンバスがセットされていた。

三年前の夏に家族三人で海に行った時、父はビーチパラソルの下で微笑みながら、賑やかな海の様子をスケッチしていたっけ。キャンバスにはその時のスケッチが、途中まで描き写されていた。

正直いうとわたしは、こんなことしても父が戻ってくるわけないって思っている。けれどそれで母の気が済むなら…

「それで母さんの気が済むなら好きにすれば、とか思ってるでしょ」

餃子を包み終えた母がこちらを向いて笑った。

「でもね、母さん信じてるんだから。あのキャンバスの絵、少しずつだけど描き進められているのよ。一昨年は青い海しかなかった、去年はそこに母さんが加わった。今年はどこまで完成させてくれるか、楽しみじゃない」

「うん、それなんだけど…」

おお、言い出しにくい。だけどわたしは母の目を見て言った。

「父さんの趣味は水墨画じゃん。あんな風に絵を描きたがるとは思えない」

その途端、母はヒュッと短い声をあげて、消えた。

「やれやれ、今年も終わったか」

わたしは父の部屋に入ると絵の具を手に取り、キャンバスに父さんを描き加えた。それからキッチンに戻って、ピーマン餃子を焼いた。三人分のピーマン餃子を一晩で食べきれるはずもなく、わたしはしばらくこればかり食べることになる。

 

2016年8月20日(土) 晴れ シーツがよく乾く午後

ひるねをしながらそんな夢を見たのさ。