梅雨の暑い日、

彼女の背骨をそっと、取り出したかったのだが、その守りはなかなかに堅く、「おいおい、ちょっと血ィでちゃったよ」、外すのにはあんがい苦労した。「ほんとうはこんな事でちからを使いたくなかったんだけどさ」、無理やり引っ張ると背骨は勢いよく飛び出して、あぶなく取り零しそうになる。脊髄反射で思わず握りしめたそれはまるで純白の磁気のような完璧さを備えていて、わたしはすぐに指先のちからを緩めた。やさしく握り直し、けれども逃げられないように…。彼女の背骨をなでまわし、またある種の執念深さで観察していると、白磁の肌にすこしの綻びを見ることができる。「きみがこんなとこ日焼けするなんて、だれも思わないだろうね?」。しかしそれこそが、わたしの求める綻びだった。昨晩短く切ってしまった爪を垂直に立て、軽く指を動かすと、綻びはすこしだけ、大きくなる。それは不器用なわたしの指先がなんとか摘めるほどの大きさで、それでも、取っ掛かりを見つけることができたわたしは嬉しかった。そうして、たった今まで彼女の背骨の一部だった薄いうすい皮膚を、ゆっくりと剥がしていく。摘んだ指先を決して離さないように、そして皮膚が千切れてしまわないように。やがて彼女の背骨は、頚椎から仙骨までぐるりと剥かれてしまったのだった。「まったく、結構な手間だった」。それから彼女の背骨を力まかせに嵌めなおすと、手にしたサランラップでメロンを包んで冷蔵庫にしまったのであった。

 

2017年7月9日(日)猛暑 メロンを食べた

短歌の目6月 投稿します

遅刻だあ!

読んでいただけたらありがたいです!

今月もよろしくご覧ください!

 

 

 

 

1. クリーム
肋骨をあらうクリーム 凹凸に忠実であることがプライド

 

2. 溝
全力で眠ったあとのほっぺたに溝があるのも知らずに おやつ

 

3. 万緑
右は雨左は晴れをわけあってセンターラインは万緑のなか

 

4. 雨
善き薬を撒いてあります。(ろくじかんいないに雨がふりますように)

 

5. きみ
深爪のきみの指先もてあそぶ52円の切手が憎い

 

テーマ詠「衣服」
制服の布面積分 学校は軽くなったりするのだろうか

タイトル無題

1.短歌はイラストレーションみたいだな、とは常々おもっていて、あー思い通りに絵が描けたらなーみたいな。

2.ところでケミカルブラザーズを聴きながらふと気づいたのは、

https://youtu.be/BC2dRkm8ATU

彼らの音の選び方は、わたしがもしも思い通りに絵を描けた場合の色の選び方の理想に近い!

3.まあ実際のわたしがどんな色を選ぶかなんてこれっぽっちも考えたこたないんだけどね

4.テクノといえど、シンセサイザーといえど、音の種類は何万通りあるといえど、ひとつの曲を作り上げるのに必要な音はおのずと決まってくると思うの。

5.それは絵を描くときにもいえると思うの。絵描きというのは自分の「パレット」というものを持っているのでしょう?わたしゃ絵を描かぬから完全に想像でモノをいいました

6.何万通りの色の中から、その作品に必要な色を集めて、それ以外の色は使わないというイメージ(そうでないと収集がつかなくなって、たいへん!)

7.というわけで、最近は、短歌はテクノだな、と思うようになりました。

8.短歌はテクノだ、テクノはDIYだ。よって、短歌はDIYだ。

9.今月の短歌の目には、この思想でもって臨みたいなと思っています。

タイトル無題

スマホを取り出して、0120、109、109、っと…

 

「はい、テングホットラインです」

 

もしもし、うちの子歯みがきしなくて困ってるんです、テングひとつお願いします。

 

「承りました。すぐに派遣いたします」

 

ガチャ。スマホを置く。ほらぁ、ちゃんと歯みがきしないからテングさん呼んじゃったよぉ。すると娘は慌てて椅子に座り直し、神妙な顔で歯ブラシをくわえた。ふむ、ここで再びスマホを取り出し、0120、109、109、…

 

「はい、テングホットライン」

 

もしもし、先ほどのテング、キャンセルでお願いします。ええ、すみません…

 

「キャンセルを承りました。またのご利用をお待ちしております」

 

ちゃんと歯みがきしてえらいねぇ、テングさんはキャンセルしたからね。すると娘はにやりと笑って、歯ブラシを放って走り出した。テングホットラインはキャンセルを繰り返すとブラックリスト入りしてしまうので、ここからは自分でなんとかするしかない。

短歌の目5月 投稿します

今月もよろしくご覧ください!

 

 

1. 青葉

なにさまか青葉のごとき増えかたをしても冬には枯れるものたち


2. くつ
月光は幾多数多の屈折を経てぶらじるに届くものやも

 

3. カーネーション
朝やけの科学の子にも祝福を カーネーションの味のミルクを


4. 衣
春に着た十二単衣が脱げぬまま残業手当はリポDに消ゆ


5. 夕なぎ
夕なぎに結んだ籤は翻らずに夜を待つ よるがくる

 

テーマ詠「運動会」
天国と地獄 バトンを繋いだらこの世のヘマもこれで帳消し

ゴールデンウイーク20XX

思い思いの休みを過ごしもはや暇を持て余したわれわれはゴールデンウイーク最終日の夜に「運動部」を発足し、各自自家用車で運動公園に集合した。運動すること一時間、といっても1周1.5kmのウォーキングコースを2周したか3周したか、それではもの足りんとて車を公園の駐車場に置いたまま外に飛び出し、近くの土手を目指す。花見をしようと誰かが言った。開花宣言より少し遅れて咲くこの土手の桜はこのあたりで二番目くらいの名所であり、まあそれもとっくの昔に葉桜になっていて茂れる木々、夜の土手は早くも初夏の気配がした。

「夜の土手は早くも初夏の気配がする」。桜なんてどこにどこにと探せば、あのお社の脇で咲いてるやつ、あのピンクのやつ、あれ桜じゃない?それで近寄ってみると、それは案の定桜だった。はながみのような花房をたわわに実らせ、そして散らした八重桜だった。

 

散り際を覚悟の如し八重桜/大月桃

 

そのまま帰るのももったいないから探検した。見つけたのはなにかの施設と、誰かのお墓と、いつかの廃墟だけだった。この連休が終わったら、次はいつ集まろうか。さあ?またこんど、暇を持て余したときに。

運動公園に戻ったときには駐車場の利用時間を過ぎており、われわれの車はチェーンの向こうに閉じこめられていたので歩いて帰った。そして連休明けの翌日は平日の出勤前に歩いて車を取りに行き、運動部はそこで解散した。

短歌の目4月 投稿します

春の夜というのは短歌が捗るなと思いました。

今月も、よろしくご覧ください。

 

 

 

1. 皿

だしぬけにくしゃんと割れる皿に似た中華リッツをもてあそぶきみ

 

2. 幽霊
白日に晒す道理はないという朧月夜に幽霊をみた


3. 入
ここはまだ分煙家屋の入口できみがゆるせば浦島になる

 

4. うそ
うそをうそを形よく積み上げてもばれたときには静電気です

 

5. 時計
これは時計ワニなどが良い例で、彼らは時間に縛られている

 

 

テーマ詠「新」
ぶた肉は春の夜風に則って思い知らせる母の不在を

 

 

 

 

リッツの原産国は中国ではなく、インドネシアでした!