好きなアイスの味は

あるときから夫がbacknumberを聴きはじめ、茶の間のスピーカーからやたら未練がましい歌が流れてくるようになった。「ちょっと、なんでこんなもの聴くようになったのさ??」ひとの音楽の趣味にケチをつけるのはお行儀の悪いことだけど、わたしと彼のあいだではゆるされている。夫曰く「こういう曲を聴いてると、なんか大学時代を思い出して、なんか、いいなって」。大学時代っておまえ、当時はこういう音楽は恥ずかしくって聴いてらんないって、言ってたのに、言ってたのに…。「大学時代に聴いてたっていうよりは、大学時代の気持ちを思い出せるってかんじかな」。そんな女々しい時代を過ごしていたのだろうか(そうはみえなかったけれども)。未練とかいっぱい抱えていたのだろうか。気づかなくって、ごめんね。わたしはそれ以上なにも言わなかった。
backnumberにハマった夫は手っ取り早くベストアルバム『アンコール』を入手して、毎回一曲目の「高嶺の花子さん」から聴き始める。ああまたこの歌か。しばらくすると大正義・娘がこれを覚えて「むすめちゃんバックナンバーだいすき」と口ずさむようになったので、わたしまで歌詞を覚えるはめになった。それで、聴けば聴くほど、歌詞を読み込むほどに、あーわたしはこの歌がいやだ、というかこの「僕」がきらいだ、と思ってしまって、そう思わせる魅力がこの歌にはある。

君の恋人になる人は モデルみたいな人なんだろう
そいつはきっと 君よりも年上で
焼けた肌がよく似合う 洋楽好きな人だ

「僕」は劣等感まみれで消極的なくせにこういう妄想ばかり捗っているところがきらい。彼女の表面だけを読み取って勝手な恋人像を仕立て上げ、自分はそれに当てはまらないからと勝手に落ち込んで、万が一にも恋人同士になることができても「君はそんな女の子じゃないと思ってたのに」と簡単に言ってしまいそうなところがある。逆に彼女のほうから「あなたってそんな人じゃないと思ってた」と言われようものなら、どうせ君だってモデルみたいに背の高い年上で洋楽好きな男が好きなんだろ僕みたいなやつなんかいやなんだろ、とまくしたててしまいそうなところがある。

キスをするときも 君は背伸びしている
頭をなでられ君が笑います 駄目だ何ひとつ 勝ってない
いや待てよ そいつ誰だ

想像の中でさえその恋人役は自分ではない。第三者を恋人役にしてしまって、誰かとイチャイチャする「君」が見たいの、もしかして?もはや「君」は鑑賞の対象だ。

真夏の空の下で 震えながら 君の事を考えます
好きなアイスの味はきっと

好きなアイスの味はきっとバニラだと思う。こいつは「君」がバニラアイスを舐めるところを想像していると思う。

ところでこの歌は曲も良くて、歌謡曲みたいなイントロからサビまでひと息にいけるところがすき。サビのメロディの音を確かめながらゆっくりと歌えば喉が気持ちいい。サビ最後の

僕のものに なるわけないか

の落とし所もよい。

というわけで、わたしはこの歌がすきなのでした。

 

 

今週のお題「好きなアイス」

好きなアイスはバニラかな。

短歌の目7月 投稿します

締切の月末前に週末があるのはとってもありがたいことだと思います。

今月もよろしくご覧ください。

 

 

1. 透
脱ぎたてのサランラップを想うもう透明じゃないとうめいである

 

2. ホイップ
丸腰で行ってはならぬ肉の海、油の平野、ホイップの丘

 

3. 果
しべのないカサブランカを聞くことの結果としての夏の葬列

 

4. ペンギン
海の日の空 ペンギンの描かれたシートは砂を蹴ってどこかへ

 

5. 短夜
短夜に牌をならべて言うことにゃ「親父は鳥を絞めて断ヤオ

 

テーマ詠「あつい」

気化熱をなかったことにして姉は夕立ちとなる土用の坂道

梅雨の暑い日、

彼女の背骨をそっと、取り出したかったのだが、その守りはなかなかに堅く、「おいおい、ちょっと血ィでちゃったよ」、外すのにはあんがい苦労した。「ほんとうはこんな事でちからを使いたくなかったんだけどさ」、無理やり引っ張ると背骨は勢いよく飛び出して、あぶなく取り零しそうになる。脊髄反射で思わず握りしめたそれはまるで純白の磁気のような完璧さを備えていて、わたしはすぐに指先のちからを緩めた。やさしく握り直し、けれども逃げられないように…。彼女の背骨をなでまわし、またある種の執念深さで観察していると、白磁の肌にすこしの綻びを見ることができる。「きみがこんなとこ日焼けするなんて、だれも思わないだろうね?」。しかしそれこそが、わたしの求める綻びだった。昨晩短く切ってしまった爪を垂直に立て、軽く指を動かすと、綻びはすこしだけ、大きくなる。それは不器用なわたしの指先がなんとか摘めるほどの大きさで、それでも、取っ掛かりを見つけることができたわたしは嬉しかった。そうして、たった今まで彼女の背骨の一部だった薄いうすい皮膚を、ゆっくりと剥がしていく。摘んだ指先を決して離さないように、そして皮膚が千切れてしまわないように。やがて彼女の背骨は、頚椎から仙骨までぐるりと剥かれてしまったのだった。「まったく、結構な手間だった」。それから彼女の背骨を力まかせに嵌めなおすと、手にしたサランラップでメロンを包んで冷蔵庫にしまったのであった。

 

2017年7月9日(日)猛暑 メロンを食べた

短歌の目6月 投稿します

遅刻だあ!

読んでいただけたらありがたいです!

今月もよろしくご覧ください!

 

 

 

 

1. クリーム
肋骨をあらうクリーム 凹凸に忠実であることがプライド

 

2. 溝
全力で眠ったあとのほっぺたに溝があるのも知らずに おやつ

 

3. 万緑
右は雨左は晴れをわけあってセンターラインは万緑のなか

 

4. 雨
善き薬を撒いてあります。(ろくじかんいないに雨がふりますように)

 

5. きみ
深爪のきみの指先もてあそぶ52円の切手が憎い

 

テーマ詠「衣服」
制服の布面積分 学校は軽くなったりするのだろうか

タイトル無題

1.短歌はイラストレーションみたいだな、とは常々おもっていて、あー思い通りに絵が描けたらなーみたいな。

2.ところでケミカルブラザーズを聴きながらふと気づいたのは、

https://youtu.be/BC2dRkm8ATU

彼らの音の選び方は、わたしがもしも思い通りに絵を描けた場合の色の選び方の理想に近い!

3.まあ実際のわたしがどんな色を選ぶかなんてこれっぽっちも考えたこたないんだけどね

4.テクノといえど、シンセサイザーといえど、音の種類は何万通りあるといえど、ひとつの曲を作り上げるのに必要な音はおのずと決まってくると思うの。

5.それは絵を描くときにもいえると思うの。絵描きというのは自分の「パレット」というものを持っているのでしょう?わたしゃ絵を描かぬから完全に想像でモノをいいました

6.何万通りの色の中から、その作品に必要な色を集めて、それ以外の色は使わないというイメージ(そうでないと収集がつかなくなって、たいへん!)

7.というわけで、最近は、短歌はテクノだな、と思うようになりました。

8.短歌はテクノだ、テクノはDIYだ。よって、短歌はDIYだ。

9.今月の短歌の目には、この思想でもって臨みたいなと思っています。

タイトル無題

スマホを取り出して、0120、109、109、っと…

 

「はい、テングホットラインです」

 

もしもし、うちの子歯みがきしなくて困ってるんです、テングひとつお願いします。

 

「承りました。すぐに派遣いたします」

 

ガチャ。スマホを置く。ほらぁ、ちゃんと歯みがきしないからテングさん呼んじゃったよぉ。すると娘は慌てて椅子に座り直し、神妙な顔で歯ブラシをくわえた。ふむ、ここで再びスマホを取り出し、0120、109、109、…

 

「はい、テングホットライン」

 

もしもし、先ほどのテング、キャンセルでお願いします。ええ、すみません…

 

「キャンセルを承りました。またのご利用をお待ちしております」

 

ちゃんと歯みがきしてえらいねぇ、テングさんはキャンセルしたからね。すると娘はにやりと笑って、歯ブラシを放って走り出した。テングホットラインはキャンセルを繰り返すとブラックリスト入りしてしまうので、ここからは自分でなんとかするしかない。

短歌の目5月 投稿します

今月もよろしくご覧ください!

 

 

1. 青葉

なにさまか青葉のごとき増えかたをしても冬には枯れるものたち


2. くつ
月光は幾多数多の屈折を経てぶらじるに届くものやも

 

3. カーネーション
朝やけの科学の子にも祝福を カーネーションの味のミルクを


4. 衣
春に着た十二単衣が脱げぬまま残業手当はリポDに消ゆ


5. 夕なぎ
夕なぎに結んだ籤は翻らずに夜を待つ よるがくる

 

テーマ詠「運動会」
天国と地獄 バトンを繋いだらこの世のヘマもこれで帳消し