蝉日記

2015年8月7日 晴れ 夏の暑い一日

洗濯物を干さむとてベランダに出ると必ず蝉が転がっていて、しかもその数は日ごとに増えている。丁重に弔ってやろうと仏心を出したときに限って、バタバタジジジとまだ生きてますアピールしてきたりして、それが最高に怖い。だからもはや見て見ぬ振りで、触れないように踏まないように慎重にベランダの出入りをしている。人間が自由に動ける範囲が、だんだん狭くなってきた。
先日、夫に「ベランダに蝉が増えた」と報告した。「だからちょっと片付けてほしい」とつまりは言いたかったのだけど、そこは察してくれなかった。かわりに、夫はこう言う。「知ってた?その蝉に、腹がない」。知らなかった。原型のまま落ちていると思っていた蝉はよく見ると腹をなにものかに食べられていて、羽と上半身三分の一くらいしか残っていない。確かに腹はふっくらとおいしそうで、上半身三分の一は筋っぽくておいしくなさそう、羽は固そうだった。
いったいなにものの仕業か?早朝カアカアとうるさいのはカラスで、庭のミニトマトの不出来で放置した実などをついばんでいるようである。ごく稀に耳元で羽ばたきを感じることもあるから、もしかしたら大胆にもベランダに侵入しているのかもしれない。そういえばネコが中途半端な時間にウロウロして、落ち着かないこともあったの。そうなると、蝉は死んでからそれなりに早い段階でカラスの腹に収まり、ベランダに残されているのは本当の蝉の抜け殻、というか食べかすなんだろう。早く片づけないと。燃えるゴミでいいのかな。庭に埋めるの???


そうしてできたのが、こちらの短歌です。

たましいの羽化した蝉の抜け殻はタンパク質を ( よる )に晒して
「短歌の目」8月 投稿します - 乳飲子を小脇に抱えて

蝉の主成分はなに?調べたら、タンパク質が抜群に豊富とのこと。そのように認識すると、「生き物」として急に親しみがわいた。生きている虫としては怖いけど、タンパク質豊富な虫としては、たぶん、蝉を食べられると思う、わたし。イナゴと同じようなものだろうか。
自分より断然小さい虫相手に怖いってなんだ、ネコのようにかじるわけでもあるまいに。血が出るわけでもあるまいに。しかし怖いものは怖い。気持ち悪いとかいうんじゃなくて怖い。けれども娘が物心ついたとき、虫にギャーギャー言うお母さんはかっこわるいし教育にもよくない、と思っている。ので、今年か来年の夏には、蝉を捕まえられるようになりたい…。まずはベランダで抜け殻になっているやつを、素手で掴んで、葬る。あとは玄関の陰にも一匹転がっている。彼も片付けてあげなくちゃ。