せんべい工場

2016年11月26日(土) 晴れ 河の風はつめたい

焼成前のせんべいの重みはいったいどれほどだというのか。その目盛りが10.00になるとそれまでコインゲームの要領で白糸の滝のように落ちていたせんべいは堰き止められ、せんべいを受け止めていた段ボール箱はローラー作業台の上を押し出されるままに少し滑って先のほうで遠慮がちに止まった。すぐに横から空の段ボール箱が供給されて、開放されたせんべいはナイアガラのごとくそこに注ぎ込む。目盛りが再び10.00になるのに3分とかからなかった。次々と産出される10.00の段ボール箱、ローラー作業台の上がだんだん窮屈になってきたころに、奥の部屋から一人の作業員が現れる。そして彼に率いられた、簡易フォークリフトいっぱいの段ボール箱たち。中はみな空だった。

彼は焦らすような動きで空の段ボール箱を補充し、けれどわれわれが焦らされているのはそこじゃない、ローラー作業台の上いっぱいになってしまった10.00の段ボール箱のことが心配でならなかった。あとひとつかふたつの10.00を計り終えてしまったら、そのあとに堰き止められたせんべいたちは一体どうなる?彼はしかし悠々とローラー作業台の前に移動すると、10.00の段ボール箱のひとつをおもむろに取り上げてパレットの上に置いた。それはローラー作業台の先頭でこの瞬間をいちばん長く待っていたやつではなく、二番目か三番目のやつで、そこに彼の、このラインで唯一の意思を持つ生き物としての思惑、または悪意のようなものを感じることができた。

10.00の段ボール箱ひとつ分の空白が生まれたことは、ラインに生じていた閉塞感を打ち破ることに他ならなかった。作業員は相変わらず、間に合うか間に合わないかといった緩慢な動作でわれわれの気を揉んだが、われわれにはもう、彼は信頼すべき人だということがわかっていた。横横縦の3箱を並べた上に縦横横の3箱を並べる彼の手つき目つきはよく見れば慎重そのもので、これから生まれてくる10.00の段ボール箱たちのことも安心して任せることができたのだった。