続・タイトル無題

職員だと思っていたおっさんは受付を終えるとおもむろに袈裟を着て、5分くらいの小さいお経をあげますね、といった。いい声だったので多分本職で、副業で斎場の受付をしてるんだろう。和尚兼受付兼作業員。この斎場はおっさん一人で成り立っている。お経は出だしからむせていた。「先日から急に冷え込んだでしょう、だから年を取って弱ってたりすると急にガクッといくんでしょうねえ、さっきのワンちゃんもそうだったし」急に世間話をするおっさん。「ウサギさんだと、この2番目の大きさの骨壺がちょうどいいんじゃないかなあ、これ千円です。カバーは下にある、同じく千円のが同じサイズになってます。どうしますか?」兼営業のおっさん。「亡くなったペットを火葬しないでね、皮を加工して小物にするサービスもあるんだって」小さい声で知識を披露する妹。控え室には『ペットと訪れる日本全国の宿』とか、『世界の犬種図鑑』、『ペットと過ごすガーデニングをつくろう』とか、どういう気持ちにさせたいのかわからないけど本がいくつかあったので読んで過ごした。

みかんとビスケットだけでなく、チモシーとかペレットも入れてあげればよかったかな。あれをああして、これをこうしてあげればよかったかな。しかし死んでしまった本人はもうなにか持つこともなにか感じることもなく、「あげればよかった」というのは遺された人が悔いを残さないようにするためのひと区切りなんだって、去年の夏に知ったから、後悔はしないようにした。後悔は本人のためにはならない。

ヒゲとか尻尾の毛とか、なにか残しておこうか?妹は考えて、でもそれをやめた。まるごと焼いてもらって、小さなかけらまで全部拾って持って帰って、春になったら家の裏に骨を埋める、やがてそれは裏に生えてる山椒の木の肥料となって、ワラビタタキを作るときやウナギを食べるときに一役買ってもらおうという算段なのでした。家の裏には他にも、ハムスター2匹とウサギの子どもたちがねむっている。

骨壷には犬と猫と鳥とウサギのイラストが描かれていて、すこし安心した。帰りしな、母とおっさんは領収書の宛名と振込の件ですこし揉めた。