新社会人なんて二度と嫌

もうすぐ4月1日がやってきて、新社会人の心労はいかばかりかと思う。我が社でも人事異動が発表されて、我が支店には18歳の女の子がやってくることになった。18だぜ。

わたしが新採で配属された支店には同じ年代の女性はいなくて、会社ってこういうものかなと思いながら粛々と業務にあたった。当時のわたしと年の近い先輩は10歳離れていたのでたいそう恐縮しながら接したものだったが、しかし今にしておもえば10の年の差なんて大したことない。わたしは10コしたのヤツにも平気で敬語を使う。だから新人もあんまり恐縮しないでくださいと言いたい(あんまり舐めないでくださいとも言いたい)。

本店で入社式をして翌日はじめて支店に向かったとき、本当の手ぶらで行ってしまって、先輩がひとつひとつ備品を与えてくれたことを覚えている。ボールペン、消しゴム、ホチキス…。シャチハタは今日の帰りに買っておいてね。次の日、わたしはフセンに買ってきたシャチハタをおして、セロテープでボールペンのキャップ部分に巻き付けた。そしてそのボールペンをかれこれ12年使い続けた。

 

芯を替えようとも、本体とキャップは同じものを使い続けた。いつしか名字も変わり、貼り付けたセロテープはとっくの昔に黄色くなったが、新しいものにしようとは思わなかった。いや、思わないこともなかった、ときどき重心や太さの違うペンを使うと自分の字が上手くみえるときがあって、そういうとき、自分にピッタリのペンを買い求めてみようと思うこともあった、けど、字の上手な同僚がこの三菱ボールペンSA-Rを使って教科書みたいな字を書いているのをみて、弘法筆を選ばずとはよく言ったものだなあなどと思いながらこれを使い続けるのだった。

ところが、一年ほど産休をとってから復帰してみると、会社の備品から三菱ボールペンSA-Rが外され代わりによくわからん芯の細くて書き心地も頼りないやつが新たなスタンダードとして備品リストに入っていて、まるで浦島太郎状態ではありませんか。わたしは急いで、余っている三菱ボールペンSA-Rの替芯や、そのへんに転がっていた三菱ボールペンSA-Rの本体から芯だけを抜いて、机の中にストックした。気がつけば周囲の同僚はだれも備品のペンをつかっておらず、各々こだわりのペンを用意しているらしかった。いちばん多いのはジェットストリームだったが、わたしはあのわざとらしいヌルヌルとした書き心地があんまり好きではない。それにジェットストリームのインクは一年も経つと伝票上でボンヤリ滲んでしまって、それを見つけるたびにムム、ジェットストリームめ、となる。しかしストックの三菱ボールペンSA-R替芯もついに先週切れてしまって、わたしは今ボールペン難民である。仕方がないからナントカ保険会社だのナントカ温泉だのの名前が入ったボールペンを使っているが、客の前だと恥ずかしいので早くなんとかしたい。一番マトモなのは自分に合ったボールペンを見つけて買うことなのでしょう、けれどもわたしは会社の伝票は会社の備品のボールペンで書きたいという妙なこだわりがあることがこの度判明したので、三菱ボールペンSA-Rの替芯を自分で買って、黄色いセロテープが巻き付いたあのボールペンを使い続けるかもしれない。これは新人に舐められるかもしれませんね。