時をかける短歌

婚約のときの約束はたさんとゴキブリを手に封じ込めたり

(康 哲虎/NHK短歌 2015年11月号)

 

2016年8月5日(土)晴れ 水まんじゅうを買う

去年の夏は乳飲み子と二人きりで夫の帰りを待つ生活が続いていて、その日なんとなく付けたテレビではNHK短歌が始まったのでした。そのころは短歌の目に一生懸命だったから丁度いい勉強したろうじゃんと思ってしっかりと見た。おそらくNHK短歌をしっかりと見たのはこのときが最初で最後、だから番組の内容や紹介された短歌は案外ずっと覚えていて、それで今日蘇ったのがこちらの作品です。

 

職場の渡部くんがもうすぐ結婚する、入籍は、式はいつだ、もう新居は決めたのか、とか支店内は最近なんだかお祝いムードで、そんな中隣の席の女の子が、「わたし昨日渡部くんと100均で会いました」と教えてくれた。へー、なに買ってた?「ゴキブリホイホイ買ってました」なんじゃそりゃ、新居にゴキブリ出るの?「わかんないけど、捕まえたら奥さんに見つかる前に捨てるんだって」へえ、優しいね。渡部くんは優しい。きっと、ゴキブリをはじめとするあらゆるものから奥さんを守ろうとしているのだろう。そのためなら自分の手を汚すことも厭わない。だけどそのうち、彼よりも先にゴキブリを見つけた奥さんがスリッパで叩いて殺して何食わぬ顔で始末するんじゃないか、そう思ったのは去年も今日も同じ夏の日。それで蘇ったのがこちらの作品です。

 

そんな渡部くんに学生時代どんなサークル活動してたのって聞いたところ、短歌を読んだり詠んだりしていたというので驚いた。詠んだ短歌は見せてくれなかったけど、読んだ歌集なら貸してあげると今日持ってきてくれたので、やっぱり渡部くんは優しい。