梅雨の暑い日、

彼女の背骨をそっと、取り出したかったのだが、その守りはなかなかに堅く、「おいおい、ちょっと血ィでちゃったよ」、外すのにはあんがい苦労した。「ほんとうはこんな事でちからを使いたくなかったんだけどさ」、無理やり引っ張ると背骨は勢いよく飛び出して、あぶなく取り零しそうになる。脊髄反射で思わず握りしめたそれはまるで純白の磁気のような完璧さを備えていて、わたしはすぐに指先のちからを緩めた。やさしく握り直し、けれども逃げられないように…。彼女の背骨をなでまわし、またある種の執念深さで観察していると、白磁の肌にすこしの綻びを見ることができる。「きみがこんなとこ日焼けするなんて、だれも思わないだろうね?」。しかしそれこそが、わたしの求める綻びだった。昨晩短く切ってしまった爪を垂直に立て、軽く指を動かすと、綻びはすこしだけ、大きくなる。それは不器用なわたしの指先がなんとか摘めるほどの大きさで、それでも、取っ掛かりを見つけることができたわたしは嬉しかった。そうして、たった今まで彼女の背骨の一部だった薄いうすい皮膚を、ゆっくりと剥がしていく。摘んだ指先を決して離さないように、そして皮膚が千切れてしまわないように。やがて彼女の背骨は、頚椎から仙骨までぐるりと剥かれてしまったのだった。「まったく、結構な手間だった」。それから彼女の背骨を力まかせに嵌めなおすと、手にしたサランラップでメロンを包んで冷蔵庫にしまったのであった。

 

2017年7月9日(日)猛暑 メロンを食べた