今月もよろしくご覧ください!
1. 青葉
なにさまか青葉のごとき増えかたをしても冬には枯れるものたち
2. くつ
月光は幾多数多の屈折を経てぶらじるに届くものやも
3. カーネーション
朝やけの科学の子にも祝福を カーネーションの味のミルクを
5. 夕なぎ
夕なぎに結んだ籤は翻らずに夜を待つ よるがくる
テーマ詠「運動会」
天国と地獄 バトンを繋いだらこの世のヘマもこれで帳消し
思い思いの休みを過ごしもはや暇を持て余したわれわれはゴールデンウイーク最終日の夜に「運動部」を発足し、各自自家用車で運動公園に集合した。運動すること一時間、といっても1周1.5kmのウォーキングコースを2周したか3周したか、それではもの足りんとて車を公園の駐車場に置いたまま外に飛び出し、近くの土手を目指す。花見をしようと誰かが言った。開花宣言より少し遅れて咲くこの土手の桜はこのあたりで二番目くらいの名所であり、まあそれもとっくの昔に葉桜になっていて茂れる木々、夜の土手は早くも初夏の気配がした。
「夜の土手は早くも初夏の気配がする」。桜なんてどこにどこにと探せば、あのお社の脇で咲いてるやつ、あのピンクのやつ、あれ桜じゃない?それで近寄ってみると、それは案の定桜だった。はながみのような花房をたわわに実らせ、そして散らした八重桜だった。
散り際を覚悟の如し八重桜/大月桃流
そのまま帰るのももったいないから探検した。見つけたのはなにかの施設と、誰かのお墓と、いつかの廃墟だけだった。この連休が終わったら、次はいつ集まろうか。さあ?またこんど、暇を持て余したときに。
運動公園に戻ったときには駐車場の利用時間を過ぎており、われわれの車はチェーンの向こうに閉じこめられていたので歩いて帰った。そして連休明けの翌日は平日の出勤前に歩いて車を取りに行き、運動部はそこで解散した。
春の夜というのは短歌が捗るなと思いました。
今月も、よろしくご覧ください。
1. 皿
だしぬけにくしゃんと割れる皿に似た中華リッツをもてあそぶきみ
2. 幽霊
白日に晒す道理はないという朧月夜に幽霊をみた
3. 入
ここはまだ分煙家屋の入口できみがゆるせば浦島になる
4. うそ
うそをうそを形よく積み上げてもばれたときには静電気です
5. 時計
これは時計ワニなどが良い例で、彼らは時間に縛られている
テーマ詠「新」
ぶた肉は春の夜風に則って思い知らせる母の不在を
*
リッツの原産国は中国ではなく、インドネシアでした!
夫は家族のだれよりも早く体調を崩し、自分よりも体調の悪い者がいようものなら「おれも喉いたいかも…」といいながらいちはやく体温計を取り出し、測ると実際に38度近くの熱があるからたちが悪い。結婚式のときに「病めるときも健やかなるときも…」とかなんとか誓いを立てて、そのときはそんなおおげさなと思っていたけど、病めるときというのがこうも多いとあの誓いもまあ必要かなという気がする。核家族の子育て世帯だから、単純に人手が足りなくなるのがきつい。あと彼は体調を崩すとあからさまに病人オーラを出すので、こちらの気分も滅入ってしまう。会社を休んで一日寝てたおかげで治ったよ、とはいかないらしい。ところで我々の結婚式は神前式だったから、「病めるときも健やかなるときも?」と牧師が問うてきたわけではなかった。けれども「誓いの詞」というのを二人で一緒に読みあげ、そのときにどこも似たようなことかいてあるんだなと思った記憶があるから、まあ似たようなことで誓いを立てたんだろう、だから末永く愛します。
先週の日曜は休日出勤の体力勝負で疲労困憊だったのだった。「花見日和の日曜に大変なこと頼んですまんのう」とは客から口々に言われたものだが、いいんですのよ代休もらえますから、平日にゆっくり銭湯でも行きますわ、ホホホ、とかなんとかがんばった。それにほら、桜の見ごろも来週あたりでしょう?お花見は来週ゆっくりするからいいんですのよ。そしたら客どもは「公園地の桜なんて今日あたり満開だっぺ。このへんは田舎だから桜の咲くのが遅いけど、公園地の桜なんて明日の雨で全部散っちまうっぺ」と言うので泣きたくなった。ここ数日わたしが見てきた桜は全然咲いてなかったじゃないか。知らないところで満開になりやがって。
仕事が終わったころには指先から腕から腹から腰から足まで痛かった。車に乗ってもすぐには発車できずに、鼻をかんだりしてから自宅へ電話した。すると母が出て、あんた、子どもが熱出して大変よ、今から坐薬打つわよ、後ろでは我が子が大泣きする声が聞こえて、ああかわいそう、どうにか楽にしてやって、それでタカシ君は?と聞くと、タカシ君は38度の熱が出て休日診療に行ったらインフルエンザの疑いありと言われてそれからずっと別室で横になっているという。はあ、じゃあわたしはこれから帰宅したら風呂掃除して洗い物して夕飯の準備して子にご飯食べさせて(風呂に入れるかは様子見てから考えて)、そういうことひとりでしなきゃいけないのね?そう思いながら車を運転すれば、公園地の桜は確かに満開で、遠方から来たみたいな観光客、出店に並ぶ人たち、小さい子を連れた家族はもうすぐ帰るところで、部活終わりの高校生は今から夜までブラブラ楽しむかみたいな、そういう毎年の花見の風景が確かにあって、これはもう、もう、あの角までは我慢して、あの角の本屋の桜まで満開だったら、泣いちまおうかと思ったのでした。
はたして角の本屋は満開の樹を一本抱えていて、ただしそれは、桜よりも真白なコブシだった。なんだ、よかった。子ぐまたちは、もしゃもしゃ、ぺちゃぺちゃ、花をたべます。そうして帰宅して二人の病人の面倒を見ながら、明日はわたしも会社休まなきゃならんなあと、思ったのだった(そこで代休を消化してしまったから、平日に銭湯に行く楽しみも奪われましたとさ)。
忙しい年度末ですが短歌のことを考えていると現実逃避できます。
今月もよろしくご覧ください。
1. 草
みどりみどり ほうれん草を信じれば冬の訛りが巻きこんだ砂
2. あま
あまもりの傘は右眼に春雨をわずか降らせて開花宣言
3. ぼたん
家族四人、ひとつところに集まって四ツ穴ボタンを縫い留めている
4. 鳥
傷ついた鳥をつつんだペンギンのネイルアートの君の浅はか
5. 雷
雷はだれに呼ばれることもなくグラスにすこしの泡を残して
テーマ「捨」
前髪を眉毛で切り揃えるキャラを捨てる途中の君のいらだち
月曜はまた来るのだし缶もきみもそのままにして今日は眠ろう
拝啓 メタルのおっさん。おっさんは今年の仕事始めに顔を合わせたとき、「今年はメタル元年にしようね」といってにっこり笑った。わたしは、はい、ぜひ!と笑顔で返した、つもりだけどね、ほんとうは一昨年の暮れのころからわたしのメタル修行は始まっていたんだよ、メタル元年というならそれは去年のことだった。
一昨年の暮れにおっさんがくれた手書きのメモは職場に配達される新聞にはさまっていたなにかの広告の裏紙だった。元祖メタルともいえる4組のアーティストからおすすめのタイトルが一つずつ書かれていて、わたしはそれをにぎりしめて、職場から最も遠いゲオに向かった。おっさんのオススメにベストアルバムはなかった。そのころのわたしはテクノからプログレッシブに興味がうつったところで、メタルもその延長線のずっと遠いところに位置する程度とは思っていたから、まあちょっと聴いてみるのもいいもんかなくらいの気持ちでCDをレンタルして、一通り聴いたところで放置していたのだけれども、ある夏の日のドライブ、お気に入りのプレイリストも聴き飽きた、精神の高揚を求めたわたしは、アイアン・メイデンの『The Number Of The Beast』を流した。そして「Hallowed Be Thy Name」に辿りついたのだよ。
最初に聴いたときは演歌かと思ったけど、今でも結構そう思っている。すぐに口ずさめるギターメロディとかビブラートかけまくりのヴォーカルとか、とにかくきもちいい。これがメタルこれぞメタルと思ったものだった。気味の悪いジャケット、髪振り乱すマッチョのギタリスト、腕にはもれなく入れ墨が入っていて、観客はスキンヘッド。
それで次の日、わたしはおっさんに正直に申告した。「去年オススメされたCD、今更になってよくよく聴いてみたんですけどね、Hallowed Be Thy Name めっちゃいいですね」。
それからおっさんは、朝の掃除とお茶出しの合間にメタルの話をしてくれるようになった。時にはバンドメンバーの変遷の話、時にはライブの話、夏には夏フェスの話、秋には Hardwired の話。おっさんは Hardwired の発売を心待ちにしていたから、 Hardwired について訊くのが礼儀だと思った。「Hardwired どうでしたか?」「よかったよ、プログレっぽくて」「へえ、プログレには興味あるのでわたしも聴いてみよう」それで現在までまだCDすら手に取っていないわたしですが、冬になったときおっさんは大量のCDを貸してくれた。ドリームシアターとメタリカ。それを一生懸命パソコンに入れながら、今このブログを書いています。(いい加減明日返そう) 敬具