なつやすみの宿題 投稿します

なつやすみの宿題は終わってるんだけど家に忘れてきました、などと毎年言ってたような気がする。

こちらの企画に参加します。よろしくご覧ください。

 

 

 

雷が蕾ゆらして百合の香 昨日、煙になったひとたち

 

 

さっきからきみの頭の上にある柄杓がなにか零しています

 

 

ね、あたしをたべてって姦しいから冷たい場所に閉じ込めた 桃

冷蔵庫はオアシス 何度たしかめてまた閉じ込める芳しい きみ

 

 

平熱を飛び越す風に跳ねる蝶 おれにおまえを殺させるな

 

 

金曜のまひるに陰をうしなって茹だるわたしはえだ豆だった

 

 

アカシック蚊取線香 渦の中、昨日、煙になった夏たち

餃子

「母さん、どうしたの?父さんの部屋」

キッチンに降りていくと母は餃子を包んでいるところだった。ボウルの中に挽肉とピーマンが見える。ピーマン入りの餃子は父の好物だった。

「どうってことないわよ。ただなんとなく、父さんがふらっと帰ってくる気がしてね」

父の部屋の真ん中には、イーゼルと絵の具と、キャンバスがセットされていた。

三年前の夏に家族三人で海に行った時、父はビーチパラソルの下で微笑みながら、賑やかな海の様子をスケッチしていたっけ。キャンバスにはその時のスケッチが、途中まで描き写されていた。

正直いうとわたしは、こんなことしても父が戻ってくるわけないって思っている。けれどそれで母の気が済むなら…

「それで母さんの気が済むなら好きにすれば、とか思ってるでしょ」

餃子を包み終えた母がこちらを向いて笑った。

「でもね、母さん信じてるんだから。あのキャンバスの絵、少しずつだけど描き進められているのよ。一昨年は青い海しかなかった、去年はそこに母さんが加わった。今年はどこまで完成させてくれるか、楽しみじゃない」

「うん、それなんだけど…」

おお、言い出しにくい。だけどわたしは母の目を見て言った。

「父さんの趣味は水墨画じゃん。あんな風に絵を描きたがるとは思えない」

その途端、母はヒュッと短い声をあげて、消えた。

「やれやれ、今年も終わったか」

わたしは父の部屋に入ると絵の具を手に取り、キャンバスに父さんを描き加えた。それからキッチンに戻って、ピーマン餃子を焼いた。三人分のピーマン餃子を一晩で食べきれるはずもなく、わたしはしばらくこればかり食べることになる。

 

2016年8月20日(土) 晴れ シーツがよく乾く午後

ひるねをしながらそんな夢を見たのさ。

 

短歌の目2月 投稿します

やっとやっと第0回企画に追いついた。
わたしの参加は第1回からだったので、この第0回企画にもいつかは投稿したいとずっと思っていたのだった。
12月に短歌の目第一期が終了してからももやもやと短歌のことを考え続けて早2ヶ月、一年前の2月に行われたこの企画はやはり2月中に投稿できるようにがんばろーと思って詠みました。
よろしくご覧ください。


tankanome.hateblo.jp


1.白

明日ここに工場が建つこの種をはらに残して白鳥よ翔べ


2.チョコ

誰とでもうまく付き合う奴だった チョコの天麩羅 チョコの漬物


3.雪

ためらいのラジオ電波を記憶してトンネル出口でまって綿雪


4.あなた

あなたって寝た子も起こすピアニシモ 八分ちょっと前のささやき


5.板

偉大なる樹を切り刻み幾万のかまぼこ板にしてやったわけ


6.瓜

遮断機が降りるしぐさで瓜を割りそれぞれになる それぞれにゆく


7.外

( おんも )ではあるきはじめたみいちゃんが追儺の鬼に倣う舟歌


8.夜

真夜中に右脚ばかり洗いをり排水溝に人魚姫ども


9.おでん

おにぎりのフットワークに憧れるおでん 昨日のおでん おいしい


10.卒業

安眠は卒業しろと宣いて夢に割り込む十徳ナイフ


短歌の目に毎月参加するうちに、「いま見えるもの」に心を動かされたら詠みこもう、という思考が身につき、だから自分の短歌を辿っていくとその時々の日記代わりになっていたりして面白い。あと短歌の目は締め切りがあって、どうしたって10日以内で詠まないといけないから頭の回転が速くなる、気がする。今回は2月の頭から考え始めたのに、結局まる1ヶ月かかってしまった。間に合ってよかった。

無題

2016年2月27日 晴れのち雨 風邪ひいた


「検査が終わったわ。目を開けていいわよ」

低くはっきりとした女性の声にゆっくり目を開けると、緑色の天井が見えた。視界の端には白い蛍光灯。頭を動かすと緑色の壁があり、自分がベッドに横たわっているのが確認できた。声が聞こえた左側を向けば、背筋をぴんと伸ばした白衣の女性が枕元の椅子に座ってこちらを見ている。
「検査の結果を報告するわ。あなたには“Kの遺伝子”が組み込まれている。さすが、あのお方の子だわ」
手にした電子パッドに顔の半分は隠された女性の、液晶モニタに照らされた目元は若々しく、髪と眉は茶色に染められていた。長い髪は後ろで綺麗な一本に束ね、キリリとした眉は短い前髪の下で微動だにしない。
「Kの遺伝子…」
呟いた自分の声が、いつもと違う声に聞こえる。この女性がいうあのお方とはきっとわたしの父親のことだろう。嫌いで嫌いで仕方がなかった父親、忌まわしき“Kの遺伝子”に取り憑かれ振り回され、ある時は人が変わったように苛立ちを露わにし、またある時は魂が抜けたように虚ろな目をしていた父親。それと同じものが、わたしの中にも組み込まれていたなんて。知らずのうちに涙が溢れてきて、止まらない。
「大丈夫、心配しないで」
女性の声も、どこか遠くに聞こえた。
「あのお方も、そのお父様も、そのまたお父様も…、みんな通ってきた道よ。あなたにも克服できる。わたしたちも万全のサポートをするわ」
「みんなって、オトコばかりじゃない…」
わたしは鼻をすすり上げながら、弱々しく抗議した。
「それは……、」少し柔らかくなった女性の声。「そうね。あなたのお母様は、北国のご出身だったかしら」
そう、わたしの母親は、東北の山村に住む木こりの娘だった。彼女が生まれ育った山や里に、幼い頃のわたしはよく遊びに行ったものだ。春は山菜、夏は蛍、秋のアケビ、冬のスキーと、一日中山に囲まれて過ごした。父親があの“Kの遺伝子”に狂い出すまでは…。
「今のあなたが“Kの遺伝子”に苦しむのは、あなたのご両親が出逢ってしまった罪への罰ともいえるわ。これはあなたの 運命( さだめ )。でもあなたのお母様を、そしてお父様を許してあげて頂戴。あなたならきっと、大丈夫だから」
女性が電子パッドを下げたので、わたしははじめて、その顔の全貌を見ることができた。どこかで会ったことがあるような。口元には優しい笑みを浮かべている。
「いいこと、あなたにキャンディをあげるわ。もし“Kの遺伝子”に負けてしまいそうになったらこれを口に含みなさい。そして思い出すの、わたしたちはいつでもあなたを見守っているってこと」
女性の示した電子パッドに、見たこともないキャンディの瓶が表示されている。
「さあ、そろそろ時間ね。次に会うときは──」
その続きを、わたしは聞くことができなかった。突然の発作がわたしを襲い、制御できなくなった口からは──

「ヘ、ヘ、ヘックシュン」
「ヘックシュン」
「クシュン」

三つくしゃみをして、気がつくとわたしは薬局の待合室にいた。
「52番の方、窓口へどうぞ」
呼ばれて薬を取りに行く。
「山口さん、花粉症のお薬ですね。点眼薬、点鼻薬、飲み薬が出ています」
説明する薬剤師は若い男性で、ネームプレートには責任者と記されていた。細身の白衣に黒縁めがねが似合っている。
「花粉症は初めてなんだってね、お大事に。では隣で会計をお願いします」
会計窓口へ移動し財布を取り出す。そしておや、と思う。レジを叩く女性は白衣を着て背筋をぴんと伸ばし、さっきの女性に似ていて、……あの出来事は、夢?
「お会計は3,500円でございます」
低くてはっきりとした声も聞き覚えがある。けれどもわたしは、それどころではなかった。
「ヘックシュン、ヘックシュン。ずびばぜん」
今になってくしゃみが止まらなくなってしまった。鼻水も涙も滝のように出てくる。早く薬を飲まなければ。
「お大事になさってくださいね。よろしければこの飴、試供品ですけど、どうぞ」
お釣りと一緒に差し出された飴の包みまで見覚えがあるような、だけどわたしは頷くのが精一杯で、お釣りと飴とを右手に、左手で鼻を押さえながら、薬局を後にしたのだった。

短歌の目12月 投稿します

短歌の目第一期はひとまず終了とのこと、主催の卯野さんには大変お世話になりました。こんな楽しい企画を毎月運営していただいてありがとうございます!
わたしはというと「趣味は短歌です」と言えるまであとひといきのところにきてしまいました…誰に言うあてもないですが。詠むのも読むのも楽しかった、楽しみにしてた。来月からお休みなのは寂しいですが、自分ひとりでも楽しめる方法を探してみようと思います、そしたら「趣味は短歌です」って言えるかも…誰に(略)。
お付き合いくださった方々にも感謝しています。
今月もよろしくご覧ください。



1. ファー

雌猫がマンハッタンでファーを売り ひっつき虫は運ばれてゆく


2. 密

殺戮は秘密裏にせよと ( ボス )は言い「なおこのテープは消滅しない」


3. LED

永遠を願ったきみの風前にLEDを捧げて帰る


4. グレーゾーン

( みぞれ )やまず冬至の朝はなお昏くグレーゾーンを背負って カラス


5. くま

白菜のまるくまあるく閉じ籠もる 寒さもしくは春を拒んで


6. 石

ねえ、きいて、石でも成長するみたい、うれしい、ずっと側で見てるね


7. イエス

年末のてんてこ舞いでも諸人がこぞって祝うイエスのカリスマ


8. 鐘

むらびとはいつか見張りの鐘を棄て
辿りつかずに柿は熟れゆく


9. 氷

ダイエットコーラの氷は喉のおく溶けて上手に消えるだろうか


10.【枕詞】降る雪の

誕生日が消費期限の卵白を泡立てあわだて降る雪のよう

短歌の目11月 投稿します

今月は難しかった…
作成期間中に短歌の本を何冊か読んでしまいました。それが吉とでるか凶とでるか。
よろしくご覧ください。



1. シチュー

この街もじきにシチューに沈むから冷えたお鍋の底にさよなら


2. 声

ここは天国じゃなかった、とおくから風呂焚きおんなの声が聞こえる


3. 羽

この骨は確かに羽の名残だと 姪はあのとき十四だった


4. 信

給料日、信用金庫の札束でゾンビを倒す妄想をする


5. カニ歩き

月曜よ あいつのこぶしに負けたからカニ歩きして道を譲るよ


6. 蘭

保育士の彼女がIKEAで買ってきた和蘭製のフルヘッヘンド


7. とり肌

こんなにもとり肌のたつ右腕を知らせぬままに冬がまた来る


8. 霜

すきなときたべるすきなときねむる あなたでとける霜降りになる


9. 末

端末の[20歳]をなぞるゆび先も出したくない夜ビールを買った


10.【枕詞】ひさかたの

ひさかたのレーザービームを追いかけてフォクルローレに踊る:にゃごにゃご

シチュー日記

2015年10月12日 一日中、雨 北海道の上空に寒気

近所のスーパーではまだ「夏はカレー」のPOPが揺れているというのに、もうシチューのCMが流れ出した。CMの中では男が厳寒の漁港で鮭を買い、そこから山奥までは一体どのように運んだものか、深雪のロッジまでソリで担いでやってくる。ロッジの家族はこのうえない厚着で、鮭の入ったアツアツのシチューを口に運んで温かい笑みをうかべている。9月になったとたん流れたこのCMは、冬用タイヤよりもフル暖エアコンよりも早く、わたしの心に冬の寒さを届けやがった。冬長く夏短い我が地域では、夏の余韻を少しでも長く感じていたかったのに。

という気持ちで詠んだ短歌です。

熱々のホワイトシチューに飛び込んで冬将軍は南下してゆく

短歌の目10月 投稿します - ビフウ-ウンテン

 

北海道の上空に寒気があって、明日は冷えるらしい。だから明日の夜はシチューを作る。鮭とチンゲン菜も買ってあるから、鮭とチンゲン菜のホワイトシチューを作る。CMをよく見ると、このCMで作られているのは鮭とチンゲン菜のクリームシチューであると書かれている。こんなのサブリミナル効果じゃないの。まんまとはまってしまって悔しい。あと、ホワイトシチューとクリームシチューの違いがよくわからず混同してしまったことが判明して恥ずかしい。確かにクリームシチューのほうがよく言われている気がする。明日作るのはクリームシチューのほうでした。