無題
2022年1月29日(土)雪
義務教育の教室の中かっこいいというだけで盲目的に一方的にすきになった男の子への独りよがりな初恋を引きずるというか執着に近い形で年に一度くらい思い出してはサッと眺めてからまたしまいこんでいる。地元の友人たちが過去何度か彼の話題を持ち出したが、そのたびわたしは(その名前久しぶりに聞いた〜。へえ、今そんなことしてるんだ。すごいがんばってるんだね!)というリアクションを上手に返す。本当はどこで何をしているかすでに知っている。それが先日はわが親の口から彼の名が出たのでちょっとびびった。えらくなって、仕事の専門分野についてインタビューを受けて、その音声がネットに載っていたという。それは知らんかった。赤子が昼寝している隙にそのインタビューを視聴した。
はじめに、声、と思った。変声期を過ぎてからの彼の声を初めて聴いた。録音した自分の声を聴くような、なぜか気恥ずかしくなる体験だった。インタビューは二部構成で、前半は専門分野、後半はプライベートについてだった。しょうじき専門分野のことはよくわからんかったので早送りで聞き流し、おたのしみの後半部分に入ると、彼は「妻が」と言った。「子どもたちが」「上の子が」「下の子が」と言った。ヒュッと声が出る。思わず一時停止を押して、呼吸を整えてしまった。すてきな家族に囲まれて、仕事でも活躍していて本当に良かったな、と思った。
インタビューでは前後の切り替えのあいだに彼の好きな曲を一曲流した。どんな曲が好きなのか、また彼自身がどんなふうにその曲を紹介するのか興味深く聴いた。曲へのエピソードも、聴きどころもよくわかった。もしも自分が好きな曲を公に紹介するとして、こんなに堂々とした言葉にすることができるだろうか?、しばらくは折りにふれてこのことを思い出し、暇つぶしができそうだな、と思った。
まもなく聴き終わろうとする頃に赤子が昼寝から目覚めて、ミルクが欲しくてギャンギャン泣いた。あやしながら、ミルクを作って冷ましながらも、番組を最後まで聴いてしまおうと思った。それで聴き終わり、すごいものを聴いたぞと余韻に浸りながら冷ました哺乳瓶を持ち上げたとき、哺乳瓶の底が割れて、中のミルクがザーッと流れ出ていった。一瞬何が起こったのかわからなかった。赤子の泣き声が大きくなった気がした。我に返り慌ててストックの液体ミルクに切り替えてその場を凌いだものの、このタイミング、ぜったいになにかあるなと思った。
哺乳瓶は7年前に娘が産まれたときから使っているガラス製で、壊れるとしたら落として割っちゃったときだろうな、と思っていた。今の赤子も間もなく1歳で、もう少ししたら哺乳瓶を使わなくなるから、そうしたら処分しようとも思っていた。それなのにこんな時期にこんな壊れ方するなんて、このタイミング、ぜったいになにかあるな。しばらく彼のことを考えるのはやめようと思った。
娘が産まれたときに産院の売店で買ったビーンスタークのガラス製哺乳瓶、娘のときはほぼこれ一本でミルクをあげていて、今回の授乳でも当然使おうと思っていたのに、消耗品のニプルを付け替えようとしたらどこにも売っていなくて焦った。調べたら今はガラス製哺乳瓶ではなくて樹脂素材の瓶が主流らしい。いい時代になった、軽いし壊れにくいもんね。それでニプルも形が変わって、以前のものはもう店頭では売っていなかった。だからオンラインストアで多めに注文した。
ビーンスタークのニプルは “ママの乳首は1種類。だからニプルも1サイズです。” の潔さが好きだった。今見たら販売を終了している。わが家にはまだ替えのニプルがあるが、ギリギリセーフだった。