ツタヤの思い出
2015年7月23日 雨 人が多いと暑い
2015年7月24日 くもりのち雨 湿度が半端ないです80%って
音楽を聴くのは好きだったけど、映画や演劇を観るのはあまり得意ではなかった。それは劇場に足が向かないというだけではなく、DVDを観ることも同じで、だからツタヤにはよく行ったけどCDコーナーばかりチェックしていた。
進学して新しい友人ができたとき、彼女たちの何人かは映画好きだった。コテコテのB級映画に詳しかったり、ハリウッド・スターにお熱だったり、ディズニーとスターウォーズをこよなく愛していたり、特撮や時代劇が好きだったり。で、ときに熱くときにまったりと語らっているのを見て、おもしろそう、その会話の端っこのほうでも理解したい、と思ったことがある。それで次にツタヤに行ったとき、普段は立ち寄らないDVDコーナーのほうをのぞいてみることにした。
DVDコーナーといえども「話題の新作」などではなく、マニアックな彼女たちを理解すべくマニアックな旧作コーナーのほうだ。駅前のツタヤなのに、そこに人はほとんどいなかった。だから余計に「マニアックな映画好きのわたし」が演出できている気がして、高まる。わかったようなふりをしてタイトルをながめ、気になったものは手に取りあらすじを読んで、棚に戻す。もとは映画好きなわけではないから、あらすじを読んでもイマイチおもしろそうとは思えずに、しばらくは棚に戻す作業を続けていた。
やがて、棚の影から男が現れた。彼も学生だろうか、マニアックなコーナーに相応しいオシャレな出で立ち(今ならサブカル風ファッションという)。きっと本物のマニアックな映画好きだわ、こういう人は何を観るんだろうかと観察していると、突然声を掛けられた。
「オシャレな格好していますね。こういう映画、よく観るんですか?」
すわ、恋のはじまりか!わたし自身はたいしてオシャレな格好していたわけではないのに、それを見てオシャレといいよるか。こういう映画よく観ていたらどうだっていうんだ、わたしよくわからないんですけど、だからオススメを紹介してもらったりして、感想を言い合ったりして、今度は一緒に映画観に行きませんか、うちで観ませんか、そういう風にお付き合いをしていくのか…。あまりにもドラマチックな一言に、ベタな展開しか思いつかない。しかしここでの返答次第では、はじまる恋もはじまらない。だから答えの選択に戸惑っていると、一緒にツタヤに来ていた友人がわたしを探し出したところだった。
「アンター探したよぉ!ほら、見たいって言ってた『おジャ魔女ドレミ』、あっちの棚にあったよぉ」
身振りがでかい。声もでかい。目の前の彼だけではなく、棚の向こうにいる人にも聞こえるくらい。はい、これ以上は無理、と悟って、わたしは彼に返事した。
「見つかったみたいなんで、もう行きます」
引きとめられはしなかった。友人は「あれ誰?」と聞いてきて、知らない人だよ、おめえが恋のチャンス奪ったんだぞ、と言ったら、「すいません知り合いと話してるんだと思ったので」とのこと。でもまあよかった。たぶんあのまま続けてもいいことなかった。
それ以来わたしがマニアックな旧作コーナーに向かうことはなかったし、彼を見かけることもなかった。ツタヤにはCDを借りにいくか、アニメを借りにいくかしかない。そのツタヤも地元から撤退して久しく、ここ数年間足を踏み入れることもなくなってしまった。学生時代の友人たちは今でも映画が好きだが、わたしは彼女らの言語が理解できないままでいる。